ミュシャのアンティーク絵はがき(ポストカード)
アルフォンス・ミュシャは19世紀末のヨーロッパで流行した「絵はがき(ポストカード)」の製作に力を入れた人物で、ミュシャの息子であるジリ・ミュシャは自身の著作の中で下記のように記述しています。
シャンプノワがミュシャの新しい利用法を見つけたので、世界中へ出まわっていった。(中略)このようにして発行された膨大な数の絵葉書のおかげで、彼の名が世界中に知れ渡ったのかもしれない
アルフォンス・マリア・ミュシャ芸術と生涯 ジリ・ミュシャ(イージー・ムハ)著
このことからもわかるように、ミュシャの作品はポスターだけでなく当時から絵はがきもミュシャの重要な作品としてポスター、装飾パネル、版画などと一緒に販売されていました。
ミュシャの絵はがきの種類
ミュシャの絵はがきは製作年と出版社によって大まかに分類され、この大別は1980年に出版された「アルフォンス・ミュシャの絵はがき」によります。この本はミュシャの絵はがきの「カタログ・レゾネ」と呼ぶに近いもので、大まかな残存数の目安(いわゆるレア度)も記載してあり多くの愛好家やコレクターが参考にしています。
チノ版
チノ版はチノ社が当時有名なポスターを縮小した絵はがきで、1898年に36種類販売されました。ミュシャの作品は「ジスモンダ」「椿姫」「ロレンザッチオ」「サマリアの女」「ウェイバリー自転車」の5種類、その他にロートレックやシェレ、グラッセなどの作品が選ばれました。
ジョブ版
ジョブ版は、タバコの巻紙メーカーであるジョブ社が自身の広告ポスターや自社カレンダーで用いた絵を絵はがきやコレクションカードとして販売したもので、1905~1914年の間に販売され、ミュシャの絵柄は1897年のカレンダーを使用した絵はがき4種類と翌1898年のポスターを使用した2種類が制作されました。
モエ・エ・シャンドン版
モエ・エ・シャンドン版は、ドンペリなどでも有名なシャンパンメーカーの「モエ・エ・シャンドン」が自身の広告や販促物としてミュシャに制作したポスターやメニューを絵はがきにしたもの、ただし、モエ・エ・シャンドン版は宛名面が印刷されていないものも確認されているため、この絵はがきは販売用と実際にメニューとしても使える販促用の両方として使用されたと思われます。製作年は1900年。
シャンプノワ版
シャンプノワはミュシャの作品に最も力をいれた出版社の一つで、ポスター、装飾パネル、版画、絵はがきなど様々な種類の作品を製作しミュシャの人気に多大に貢献しました。発売された年は、上述の1980年の本「アルフォンス・ミュシャの絵はがき」では1900年となっていますが、1899年4月などの消印が入ったものが見つかっていますのでおそらく1898年と思われます。シャンプノワの絵はがきはもっとも数も多く、また他のシリーズとは異なり、絵はがきオリジナルの図柄も製作されました。
シャンプノワはさらに自身が出版したミュシャのモノクロの作品、例えば「ココリコ」「レスタンプ・モデルヌ」「1900年万国博覧会のカタログ」などを、絵はがきで販売する際には彩色しとても豪華に仕上げています。
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