概要
1906年2月24日土曜日午後9時より歌舞伎座にて、明治天皇にガーター勲章を贈呈するため来日したイギリスのコノート公アーサー殿下を歓迎するために開催された歓迎会のプログラムになります。
プログラムによると3つの演目が上演されました。
1:THE ANGLO-JAPANESE ALLIANCET(昔話日英同盟)
2:THE VENDETTA OF THE SOGA BROTHERS(曽我兄弟の仇討ち)
3:THE SCULPTOR’S DREAM(彫刻家の夢)
出演者
プログラム掲載順に
五代目中村芝翫
七代目市川八百蔵
六代目尾上梅幸
十五代目市村羽左衛門
八代目市川高麗蔵
六代目尾上菊五郎
四代目尾上松助
三代目片岡市蔵
初代中村吉右衛門
その他
新橋芸者
1:THE ANGLO-JAPANESE ALLIANCET(昔話日英同盟)
益田太郎(太郎冠者)によるこの歓迎会のための書き下ろしの作品、三浦按針(ウィリアム・アダムス)とその妻お通の物語
1幕1場
1609年の秋、場所は相州(神奈川県)の逸見の海岸で大阪の浪人岩井鉄之丞は、漁に出たまま行方不明の兄とその兄を探しに出かけた父、義平次を助けに出ようとするお通をとめる、鉄之丞とお通は恋仲であったが、地元のならず者である鉄之丞を義平次は認めていない、お通は父義平次の窮地を見捨てようとする鉄之丞に怒りを覚えるが、鉄之丞はお通を連れ去ろうとする。そこに三浦按針(ウィリアム・アダムス)が現れ、お通を引き離し襲ってくる鉄之丞を倒し義平次を船で助ける。義平次とお通は按針に感謝するが、恨みをもった鉄之丞は手下を引き連れ戻り、按針を捕らえ連れ去ってしまう。
2場
徳川家康が大勢の従者をつれ現れたところ、義平次とお通は将軍に按針救出を直訴する。直訴は重罪であるが家康は平戸からオランダ船で帰ろうとする按針に、日本に残るよう説得するため逸見にきており、按針の救出を部下に命じる。その間に家康はお通になぜ命をかけてまで按針を助けるのかを問う、そうこうしているうちに家康の部下が按針を救出し戻ってくる。按針と再開した家康は、日本に滞在してくれるよう頼むが、按針は家族に会うため祖国に戻りたいと希望する。しかし家康は按針に日本にいてもらうためにオランダ船はすでに平戸から出航させたと告げる。家康は今一度按針に国のため按針の必要性を説き按針は受け入れる、家康は償いとして、家族と離れた按針と兄を亡くしたお通が夫婦になることを提案し、義平次に米50石を与える。
2幕
場面は江戸城、家康、按針、お通、義平次、数人の大名、多くの従者や踊り子たちが、按針とお通の結婚を祝う会に集まっている。大名がそれぞれ一句ずつ祝詞を述べ、最後に全員が声を揃え祝う。家康は、按針が残ることに満足の意を示すが、按針に謝らなければならないことがあると告げる。実はオランダ船はまだ平戸に停泊しており、按針にまだこの船で帰りたいのかと尋ねる。義平次とお通は心配しながら按針の返事を待つが、按針は日本に残ると告げ、最後は芸者衆の踊りで締めくくられる。
2:THE VENDETTA OF THE SOGA BROTHERS(曽我兄弟の仇討ち)
曾我兄弟の仇討ちは、儒教思想である「不俱戴天」の最初の有名な例として日本では称賛されていると、プログラムでは紹介されている
曽我十郎、五郎兄弟は、父を工藤祐経によって殺害されており、敵討ちを決意する。1193年、源頼朝が富士山裾野で催した狩に同行し、工藤祐経を討ち取り親の仇をとるが、十郎は仁田 忠常との一騎打ちに敗れ、五郎は捕らえられて頼朝に斬首を命じられる。
この作品は、中世の日本の侍の鎧や戦い方、使用した武器などを紹介することを目的として上演されました。
3:THE SCULPTOR’S DREAM(彫刻家の夢)
場面は、桜町伯爵邸の庭園
遠くには古風な屋敷が見え、中ほどには花が咲き乱れている。庭には4つの大きな岩があり、その上には次の像が建てられている
1.静御前 鎌倉時代の白拍子(西暦1180年頃)
2.秋色 元禄時代(西暦1688年)の衣装を身にまとった女性
3. 清少納言 10世紀末の有名な宮廷女官
4. お三輪 藤原時代の豪商の娘
5. 政岡 徳川時代の大名屋敷の女官
6.源義経(西暦1180年)
7. 武蔵坊弁慶、(西暦1180年)
以上の人物像が、それぞれの時代の衣装や小物を身に着けている。
現在、この時代の有名な彫刻家であり、美術学校に勤めている左甚斎が弟子を何人か引き連れ登場する。甚斎は弟子たちに、芸術の熱烈な支持者である桜町伯爵に依頼された、日本の舞台で最も美しい人物14人の像がついに完成し、弟子たちの協力もあり伯爵に満足していただいたとねぎらう。弟子たちはそれぞれ師匠にあいさつし、そのうちの一人が、人物像の何人かが自我をもって、感謝の意を示してくれれば、仕事の集大成として喜ばしいことだ、と述べた。甚斎は、「古くはそのような例もあったが、現代では芸術が衰退したのか、神々がそのような超自然的な演出をしなくなったのか、残念ながら例がない」と答えた。甚斎は弟子たちの協力に感謝し、作品に囲まれてしばらく休みたいから一人にするよう告げ、眠りにつく。甚斎は夢の中で、幼い子供の姿をした天の使いから、これらの作品の美しさが神々に認められ、香の包みを二つ持って甚斎のもとに行くように命じられた、と告げられる。甚斎は驚いて目を覚まし、自分の想像が生み出した荒唐無稽な夢を見たのだと思うが、弟子たちを大声で呼び、夢の話をし、女性像で試してみることにした。赤い香を焚くと女性像が踊り出し、緑の香を焚くと男性像も同じように踊り出す。甚斎は、残りの像でも香を試そうとする。
1.源義家 12世紀初頭の源氏の武将
2. 現在の上級曹長の制服を着た兵士
3. 弥生 徳川時代の女性
4.太田道灌 江戸城の設計者(西暦1500年)。
5.佐藤忠信 鎌倉時代の武将(西暦1180年)。
6. 小野小町 (8世紀)
お香を焚く際に失敗し、女性像があたかも男性のように振る舞うなど不思議な現象が起こるが、最後には香の煙に従い、躍動感あふれる踊りを披露したのち、元の動かない像の姿に戻る。
(秋色は元禄時代の女流俳人、政岡は「伽羅先代萩」、弥生は「春興鏡獅子」の演目などに登場する人物のことと思われます。)