≪まじない≫(通称「サランボー」) アルフォンス・ミュシャ 1897年

「まじない」(通称「サランボー」アルフォンス・ミュシャ

アルフォンス・ミュシャが1897年に描いた≪まじない≫(通称「サランボー」)は、1897年から1899年にかけて、フランスの「レスタンプ・モデルヌ(現代版画)」という定期購読特典として発表された作品です。この作品は、ギュスターブ・フローベールの名作『サランボー』からインスピレーションを得ており、神秘的で儀式的な場面を描き出しています。タイトルは≪まじない≫(原題≪Incantation≫)ですが、通称として「サランボー」と呼ばれることが多く、その名はこの物語の主要な登場人物に由来します。

ミュシャは、フローベールの物語をただ再現するのではなく、その神秘的で儀式的な要素を視覚的に表現し、アール・ヌーヴォーの装飾的な要素を巧みに織り交ぜて作品を生み出しました。彼の画布の中に広がる幻想の世界は、単なる物語の再現を越え、神々と人間、夢と現実が交錯する瞬間を切り取っています。

≪L’Incantation≫ MUCHA と書かれた特典告知

場面説明

描かれている場面は「サランボー」の「第3章 サランボー」から

サランボーは宮殿のテラスに登った。 テラスの中央には象牙の小さなベッドがあり、四隅には甘松香、香、シナモン、没薬で満たされた四つの香炉が置いてある。 奴隷はこれらの香に火をつけた。 サランボーは北極星を見あげ、 ゆっくりと空の四方に敬意をあらわし、大空を模した金色の星が散らばった紺碧の粉の中で床にひざまずいた。 それから、両ひじを脇につけ、前腕をまっすぐ伸ばし、手をひろげ、月の光の下で顔をあげ、彼女は言った。“ああ、ラべトナ!バアレ! タニト!”そしてその声は誰かを呼ぶかのように悲しげに引きずった。 “ターナック、ネバルを持って銀の弦をそっと弾いてください、私の心は悲しいのだから!”奴隷は黒檀のハープの一種を持ち上げ、両手で演奏を始めた…

ギュスターブ・フロベール「サランボー」(筆者訳)

この説明は、レスタンプ・オリジナルに収録された際に絵の説明として書かれている文句で、フローベルの小説から抜粋しています。月の光に照らされたその儀式の様子は、まさに神秘的な儀式の一端を垣間見るかのようです。

ミュシャの解釈

ミュシャはこのシーンをフローベールの記述に忠実でありながらも、独自の解釈を加えています。小説ではサランボーが床にひざまずく場面が描かれていますが、ミュシャはサランボーを堂々とした立ち姿で描くことにより、儀式の神聖さと力強さを一層引き立てています。さらに、香や星々を幻想的な色彩で表現し、彼女の周囲を取り巻く空間そのものが神秘的な力に満ちているかのような印象を与えています。ミュシャの絵の中で、サランボーは単なる人物像ではなく、神々との交信を試みる一人の神秘的な存在として浮かび上がります。


「レスタンプ・モデルヌ」とその文化的背景

≪まじない≫は、当時の「レスタンプ・モデルヌ」シリーズの一環として発表されました。このシリーズは、フランスの印刷業者によって定期的に発行され、その購読者特典として手に入れることができたため、限られた人々によって鑑賞される特別な芸術作品でした。そのため、ミュシャの≪まじない≫もまた、特別な価値を持つ一枚として、当時の芸術愛好者に深く印象を残しました。ミュシャはこのシリーズを通じて、商業アートの枠を越えた芸術家としての真髄を表現し、アール・ヌーヴォーに大きな影響を与えました。

レスタンプ・モデルヌについては別記事もご覧ください。


リボリアンティークスの取扱い

≪まじない≫は、リボリアンティークスで取り扱うアルフォンス・ミュシャの数多くの作品の中でも特に評価が高い一枚です。その幻想的で神秘的な雰囲気は、時を超えて多くのコレクターに愛され、今日でも高い価値を誇っています。リボリアンティークスでは、ミュシャの他の作品も豊富に取り揃えておりますので、ぜひオンラインショップをご覧いただき、ミュシャの美しき世界に触れてみてください。

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関連リンク

レスタンプ・モデルヌ「現代版画」 1897~1899年

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