アブサンカクテル「地震」(ロートレックのレシピ)

ロートレックが愛した一杯──アブサンカクテル「地震」
19世紀末、パリの夜を彩ったキャバレーとカフェ・コンセール。そこには、酒と煙と芸術が渦巻く世界がありました。 そしてその中心にいたひとりの芸術家、トゥールーズ=ロートレック。
彼が愛した酒こそ、アブサン──「緑の妖精」とも呼ばれたその香草酒を、彼は独自の方法で楽しんでいました。 今回は、ロートレックが考案したとされる“幻のカクテル”≪地震(Tremblement de terre)≫をご紹介します。
なぜ“地震”なのか?
このカクテルの名は、直訳すれば「地震」。飲んだ瞬間、足元が揺らぐほど衝撃的──という意味合いで名づけられたと言われています。
ロートレックは、アブサンとブランデーを同量で混ぜ合わせ、氷も水も加えずストレートで飲んだとされています。

Tremblement de terre = absinthe + cognac(各1:1)
まさに酔いも香りも、圧倒的な強さの一杯。 この“禁断の配合”を生み出した背景には、彼の過酷な身体と精神の状態も影響していたのかもしれません。
ロートレックとアブサン

ロートレックはアルコールに深く依存していたことで知られていますが、単なる飲んだくれではありませんでした。 彼は酒を通して社交の場に飛び込み、観察し、描き、芸術を育てました。
アブサンは、そんな彼にとって創造と破壊の境界にある“媒介”だったのです。
実際、彼のポスターや挿絵にはアブサンのグラスがたびたび登場し、 作品の中にも静かに、しかし確かにその痕跡が刻まれています。
再現するなら
このカクテルは非常に強いため、現代の感覚ではおすすめできるものではありません。 それでもロートレックの世界を体感したい方は、以下の点に留意してみてください:
- ごく少量をショットグラスにて
- 無理に飲み干さず、香りと口当たりを楽しむ程度に
- 良質なアブサンとコニャックを選び、できれば常温で
ロートレックも「ちびちびと」と残しています。
関連リンク
▶ 当時の正統なアブサンの飲み方についてはこちら
緑の妖精をめぐる詩──19世紀末、アブサンの飲み方
最後に
ロートレックのアブサン・カクテルは、彼の生き方そのものを凝縮したような一杯です。 それは、破滅の香りと創造の余韻をともに秘めた液体。
ベル・エポックの深夜、芸術と狂気が交錯するそのグラスを、あなたもそっとのぞいてみませんか。
おまけ
このカクテル、一説にはイヴェット・ギルベールのために作られたとも
