今回はフランスのお酒「デュボネ」について、ロートレックやミュシャが活躍した19世紀末のベル・エポックと呼ばれた時代、フランスでは一体どんなお酒が飲まれていたのでしょうか?今回はそんなポスターや版画などを楽しむための雑学としてポスターにも描かれているお酒を紹介します。アブサンについては別の記事に書いていますので興味のある方はぜひお読みください。
19世紀末のアブサンの飲み方
当時のフランスで一般的に飲まれていたお酒は、今と同じくフランスを代表する葡萄酒、ワインでした。しかしみんながみんなワインを飲んでいたかというと実は違い、様々なリキュールのお酒が存在しました。今の日本ですとビールやハイボールにワインなどいろいろありますが、冷蔵庫もなく常温や冷暗所での保管をしなくてはいけない時代でしたので比較的アルコール度の高いお酒をストレート、もしくは水割りかソーダ割り(炭酸水)で飲むのが主流でした。アブサンなどは水で割りますし、ブランデーのソーダ割りも当時から飲まれています。しかし一般の人が安く飲むお酒は、ワインの搾りかすから作った安くてよい安いピケット(ポーマス)と呼ばれるお酒やアルコール度数の高いマール酒(現在は高級品です)などでした。
では、このデュボネというお酒はどこで飲まれていたのか?居酒屋や酒場?と思うかもしれませんが、実はアブサンやこのデュボネとよばれるお酒はカフェにて飲まれていました。
このジュール・シェレが描いたデュボネのポスターにも
APERITIF 食前酒
Dans tous les Cafe すべてのカフェで
と書かれています。
日本ではあまりなじみがないかもしれませんが、フランスではカフェでお酒を飲む文化があり今もビールやワインだけを飲んでいる人が多くいます。
デュボネとは
ではこのデュボネとはいったいどういうお酒なのか、このお酒はベルモットと呼ばれる、ワインをベースに薬草で香りをつけたお酒の一種で、ノイリー・プラットやヴェルモットを使用したカクテル「マティーニ」、イタリアのチンザノなどで名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。
しかし、それらのヴェルモットとは違い最大の特徴はキナノキと呼ばれる植物の樹皮で香りをつけたことです。キナノキとは南米原産の植物で樹皮からマラリヤの特効薬が作れます。また胃腸にもよいと言われ薬用酒としても飲まれていました。これはアブサンやジンなどとも似ています。薬草系リキュールの中でもとても飲みやすいお酒でアルコール度数は14.8度とワインとほとんど変わりません。おすすめの飲み方はロックもしくはソーダー割りなど冷やして飲むのが美味しいと思います。イギリスのエリザベス女王はこのデュボネとジンをあわせたカクテルがお気に入りでした。ちなみに味わいはジンとカンパリで有名なネグローニに近い味わいになります。
キナ酒は赤い色は、アブサンの緑と対をなし、シェレのポスターでも女性は緑の衣装、カッピエッロの他社のキナ酒のポスターでは緑の悪魔にキナ酒を持たしています。
そしてデュボネのポスターで一番有名な作品と言えば、カッサンドルのこの作品
3枚続きのポスターで左から
DU BOはフランス語の「de Beau 美しい」にかけ見た目の美しさ
真ん中は
DU BON これはそのままフランス語で「美味しい」
最後が商品名であるデュボネと言葉遊びをしています。
デュボネの下には VIN TONIQUE AU QUINQUINAと書かれています、これはキナ入りのトニックワイン(強壮ワイン)という意味で、トニックと聞くとトニックウォーターが有名ですが、昔のトニックウォーターはキナで味・香りをつけていました。ですので、このキナ酒はジンと相性のいいお酒でもあります。ジントニックや、映画にもなっている「007」のジェームズ・ボンドが頼むマティーニ、ヴェスパーはキナのヴェルモットを使用して作ります。
左はシェレのポスター、奥はカッサンドルのデュボネの扇子、そして左がデュボネのボトルになります。
ぜひ皆さんんもカフェや酒屋さんでデュボネを見つけたら飲んでみてください。