藤田嗣治 ≪日本美術展-現代の古典派≫ 

2022.12.29
藤田嗣治≪日本美術展-現代の古典派≫OGP画像

── パリに響いた、紅絵の余韻

1929年、パリ。
チュイルリー庭園に面したジュ・ド・ポーム美術館に、ひとりの和装の女性が静かに佇んでいた。紅絵風の衣装に、唐草のような曲線を描く花々。そして足元には、白猫が一匹。
これは画家・藤田嗣治によって描かれた展覧会ポスター《Exposition d’Art Japonais》──パリで開催された「日本美術展―現代の古典派」のために制作された一枚です。

この作品に描かれた女性像は、鳥居清倍を思わせる江戸の浮世美人。色彩はまさに紅絵そのもので、古典回帰の静謐な抒情が漂います。さらに注目すべきは足元の白猫。猫と女性という取り合わせは、源氏物語「若菜上」における女三ノ宮と猫の場面を連想させるもので、文学的な見立てとしても非常に豊かな象徴性を持っています。

藤田嗣治≪日本美術展-現代の古典派≫のポスター
藤田嗣治 ≪日本美術展-現代の古典派≫(1929年)のポスター

日本美術展─現代の古典派(1929)

このポスターが制作されたのは、1929年にパリで開催された「日本美術展―現代の古典派」のため。フランス教育省と美術省の後援を受け、ジュ・ド・ポーム美術館にて、6月1日から7月15日まで開催されました。

藤田はポスターだけでなく展覧会カタログの表紙画も手がけており、そこでは「日本美術」と筆で書く子供が猫と共に描かれています。この展覧会は「近代の中に宿る古典の精神」をテーマに、日本画の伝統的美意識とモダニズムの共存を示そうとする試みであり、藤田の美意識とも深く呼応していたことがうかがえます。

カタログには、図版付きで狩野芳崖の≪牧童≫(1887年)、木島桜谷《しぐれ》(1907年)≪孔雀図≫(1929年)、横山大観≪生々流転≫(1923年)、鏑木清方《築地明石町》(1927年)下村観山≪富士山≫(1928年)藤田嗣治≪争闘≫(1928年)、橋本関雪、河合玉堂、松岡映丘、川村 曼舟、上村 松園≪娘≫、平井 楳仙、竹内 栖鳳、西村五雲、榊原紫峰、冨田 溪仙、川北 霞峰の作品が掲載され、その他にも絵画だけでなく、織物、焼き物、漆器、金属工芸など352点が出展され、日本の近代日本画及び芸術がいかに西洋に再発信されようとしていたかが読み取れます。

藤田が表紙を手掛けた展覧会カタログ『日本美術展-現代の古典派』
巴里日本美術展入口の様子 黒田鵬心『巴里の思井』(昭和31年刊行)より

1890年の記憶──ポスターに見る視覚の継承

ジュール・シェレ≪日本の巨匠展≫ 1890年
ジュール・シェレ≪日本の巨匠展≫ 1890年

この藤田のポスターを見たとき、ふと既視感に襲われる方もいるかもしれません。
実はそれから39年前、1890年にもフランス・パリで「日本の巨匠展(Exposition des Maîtres Japonais)」が開かれており、そこでもやはり浮世絵の美人画をモチーフとした大判ポスターがジュール・シェレにより制作されていました。

1890年のポスターでは、歌川国芳の着物を翻しながら振り向く女性の姿が流麗な筆致で描かれており、構図的にも図像の配置、文字の階層、余白の取り方などに、藤田のポスターと通底するものがあります。

  • 振り返り横顔をみせる女性像
  • 巻物や衣の曲線
  • 書体の色分けと視線誘導
  • 西洋人に向けて「日本美術とは何か」を伝える視覚設計

このように、藤田の作品は単なる創作というより、視覚的系譜の中で「再演」されたパリのジャポニスム像とも言えるのです。

ジャポニスムの終章、藤田の応答

19世紀末、フランスを席巻したジャポニスムは、やがて装飾から記号へ、そして再解釈の段階へと移っていきました。
藤田嗣治はその終章において、「古典」としての日本美術を再提示し、西洋の眼差しを逆照射するような表現で応えました。

藤田の美人は、清倍の系譜にありながらも、パリという舞台で生まれた新たな“古典”です。
足元の猫は、日本的郷愁であると同時に、西洋の美術館に寄り添う、もう一つの文化の象徴だったのかもしれません。


所蔵品データ

  • 作品名:《Exposition d’Art Japonais》展ポスター
  • 制作年:1929年
  • 画家:藤田嗣治(Tsuguharu Foujita)
  • 技法:リトグラフ
  • サイズ:約160×120㎝

関連資料


あとがき

藤田嗣治のポスターは、単なる展覧会の広告にとどまらず、美術史と文学、そして時代の美意識を架橋する視覚の遺産です。
リボリアンティークスでは、こうした貴重な文化資料を通して、「語り継がれる美」のあり方を今に伝えています。

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