アール・デコとは?幾何学が描いたモダンの時代── カッサンドルから始まる20世紀の新しい美


大きな円と直線、そして光を切り裂くような鋭いライン。
20世紀の幕開け、世界はアール・ヌーヴォーの柔らかな曲線を離れ、
機械のスピードと都市の輝きを象徴する “新しい美” を求めはじめました。
それが アール・デコ(Art Déco)。
パリを中心に広がったこの様式は、ポスター、建築、家具、ファッションにいたるまで
あらゆるデザインを刷新し、モダンの時代を象徴する美学として定着していきます。
本記事では、その誕生から魅力、そしてカッサンドルに代表されるグラフィックデザインの革新まで──
アール・デコの世界をやさしくひもときます。
幾何学とモダンデザインの時代へ──アール・デコとは?

アール・デコとは、
1925年パリ「現代装飾美術・産業美術国際博覧会」 を契機に広まった芸術様式です。
名前の由来も、この博覧会(Exposition Internationale des Arts Décoratifs)にあります。
アール・ヌーヴォーの特徴である植物的な曲線を離れ、
アール・デコは次のようなデザインを理想としました。
- 直線、円、三角形などの幾何学的構成
- 強いコントラストと大胆な色面
- 対称性のあるデザイン
- スピード・機械・都市・交通といった近代的モチーフ
- 装飾と実用を融合した“モダンの美”
1920〜30年代のパリ、ニューヨーク、ロンドンを中心に世界的に広がり、
建築(クライスラー・ビル)、ファッション(ココ・シャネルなど)、工芸、舞台芸術まで
生活の隅々に影響を与えました。

ポスター芸術とアール・デコ──近代生活と広告デザインの結びつき

19世紀末にアール・ヌーヴォーを支えたリトグラフ文化は、
20世紀に入り、より鮮明でダイナミックな表現へ と進化します。
この新しい技術と時代精神をいち早く取り込んだのが、
鉄道・船・リキュールなどの商業ポスターでした。
アール・デコのポスターには次のような特徴があります。
- 遠くからでも視線を奪う、大胆な構図
- 対角線・円弧を利用したダイナミックなレイアウト
- 洗練されたレタリング(文字デザイン)の革新
- 広告としての機能性と芸術性の高度な両立
当時の交通網の発展(豪華客船・特急列車・地下鉄)は、
ポスターが都市を彩る最大の舞台となり、
“広告はアートである” という概念が一般に広まる契機にもなりました。
カッサンドル──アール・デコを象徴するデザイナー

アール・デコを語るうえで欠かせない人物が、
ポスター界の革命児 カッサンドル(A. M. Cassandre) です。
彼の代表作には、今なお世界中で愛される作品が並びます。
- 《Normandie》(豪華客船ノルマンディのポスター)
- 《Étoile du Nord》
- 《Dubon Dubon Dubonnet》(リズム感ある三連広告)
- 《Pivolo》
カッサンドルの革新性は、単に美しい図像を描くことではなく、
ポスターを「情報と視覚の科学」として計算しつくした点にあります。
- 人の視線の流れを導くダイアグラム的構成
- 余白を恐れない大胆なレイアウト
- タイポグラフィ(文字)のデザインを主役に引き上げた点
- 機械文明のスピード感を画面に定着させた表現力
彼の作品は、バウハウスやロシア構成主義とも影響しあいながら、
20世紀デザインの基礎を築いたと言っても過言ではありません。
暮らしにある芸術としてのアール・デコ
アール・デコは、美術館で鑑賞される芸術でありながら、
同時に “暮らしの中にあるデザイン” を理想としました。
家具、照明、ジュエリー、テキスタイル、建築──
そして大量に刷られたポスターは、都市と家庭のどちらにも息づきました。
アール・デコ期に制作されたリトグラフや版画には、
- 鮮やかな色面
- 幾何学の美
- モダンで洗練された構図
が宿り、現代のインテリアにも自然に溶け込みます。
リボリアンティークスでも、当時に刷られた正規オリジナルのポスターや絵はがきを通して、
そんな“時代をまとったモダンの美”をお届けしています。
飾るだけで、部屋に静かな緊張感とリズムが生まれる──
アール・デコの魅力は、今も私たちの暮らしに息づき続けています。